2019年09月14日

化物蠟燭

KiuchiNobori_012.jpg
 作:木内 昇
 装画:滝 平二郎
 装幀:山田 拓矢
 出版社:朝日新聞社出版







■ 内容説明 ■

なにかが、近づいてくる。
気配が次第に濃くなっていく。
名手が江戸の市井を舞台に描く、切なくはかない七つの奇譚。


■ 収録作品(括弧内は個人メモ) ■

隣の小平次(それでもこんなに生きている)
蛼橋(伊勢言葉の美しさ。補陀落渡海)
お柄杓(重石を背負ったのか、立派な添え木を得たのか)
幼馴染み(介添女)
化物蠟燭(影絵)
むらさき(姉様絵)
夜番(それまでの間、係り合いになるのは悪ぃことじゃあない)


■ 感想 ■

安定の木内昇さん。
短編も長編も安心して読める。
そして毎回驚いてしまうのだ
これだけの筆力のある人が、別に作家を目指していたわけではないことに。
これだけ知識があるのに、あまり本を読まない体育会系少女だったことに。

今回の七作、どれも面白い。
登場人物がいきいきとしており、魅力があった。

うわあ……と思ったのは「幼馴染み」。
こういう話が一番怖くて一番嫌い。
読者にこれだけの不快感を与えられるのだから、やっぱりすごい。

「隣の小平次」は、羅宇屋と早桶屋のやり取りがおかしくて、笑ってしまった。
やりとりといえば、表題作「化物蠟燭」の出だしもすばらしかった。
「蛼(こおろぎ)橋」「むらさき」はせつなかったなあ。
「お柄杓」は、最初読みにくい気がしたけれど、終わり方は一番好きかも。
「夜番」も希望があっていい。



posted by 日和 at 23:04| Comment(0) | 小説(き) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月13日

五つ数えれば三日月が

RiKotomi_001.jpg
 作:李 琴峰
 写真:Yehlin Lee
 装幀:大久保 明子
 出版社:文藝春秋







■ 内容説明 ■

日本で働く台湾人の私、台湾に渡った友人の実桜。
平成最後の夏の日、二人は東京で再会する。
話す言葉、住む国――
選び取ってきたその先に、今だから伝えたい思いがある。
募る思い、人を愛するということ。
そのかけがえのなさを繊細に描き出す21世紀の越境文学。
第161回芥川賞候補作。


■ 収録作品 ■

五つ数えれば三日月が
セイナイト


■ 感想 ■

第161回芥川賞候補作。
残念ながら受賞は逃したが、相手はインパクトの塊である「むらさきのスカートの女」だ。
別の回なら獲れたのではないか。
とても静かで、言葉の美しい小説だった。

>台湾生まれ。第一言語は中国語。
>日本語を学んだのは15歳から。

で、こんなに素敵な小説を書けちゃうんだなあ。
それも日本語で。すごすぎる。
先が楽しみな女性作家が、また一人出た。

この本に対する私の評価は高い。
その上で、気になったところを書いてみる。

途中に挟まれた実桜パートには違和感を持った。
「私」の求めに応じ、実桜は台湾での暮らしを語り始めるのだが、内容的に「私」に語ったものとは思えない。
前後との流れが切れたこの部分が、異物のようだった。

途中の「つまり」の連続技は、少しイラついた。
わざとやっているのは判るのだが、読んでいて楽しくない。






posted by 日和 at 12:46| Comment(0) | 小説(り) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月12日

アーモンド

SohnWon-Pyung_001.jpg
 作:Sohn Won-Pyung(ソン・ウォンピョン)
 訳:矢島 暁子
 装画:Yoon JungWoo
 装幀:田中 久子
 出版社:祥伝社






■ 内容説明 ■

扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。
そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。
母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。
だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。
そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。
激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく――。
怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。


■ 登場人物 ■

ソン・ユンジェ … 主人公。失感情症
母さん … ユンジェの母
ばあちゃん … ユンジェの祖母。母さんの母
シム博士(シム・ジェヨン) … パン屋の社長。元医者
ユン教授(ユン・グォノ) … 大学の教授
ゴニ(ユン・イス) … ユン博士の息子。幼いころ誘拐された
イ・ドラ … ユンジェの同級生。走るのが大好きな女の子
まんじゅう … 高校生。不良
針金の兄貴 … ゴロツキ。少年院出身


■ 感想 ■

モヤモヤする。
何にモヤモヤするのかというと、失感情症を軽く扱いすぎている気がするのだ。
書くことは非難しない。むしろ良い。ただ、もう少し説明が必要ではないかと思う。

昔、「レインマン」という映画があった。
主人公の兄は自閉症(本当はサヴァン症候群らしいが、当時は自閉症と訳されていた)で、優れた記憶力と計算力を持っている。
モデルとなったキム・ピークさんは、9000冊以上の本の内容を暗記し、日付を聞けば即座に曜日を答えることができたという。
この映画が大ヒットしたことで「自閉症=超人」というイメージが強く焼き付いてしまい、自閉症者を抱える一部の家族は迷惑したと聞いたことがあるのだ。

もうひとつは、ラスト付近の展開が気に入らない。
ネタバレになるので控えるが「なんか違う……」という感じで、この中途半端な気持ちも、モヤモヤにつながっている。

しかし、それ以外は本当に良かった。

話は面白く、登場人物も魅力的だ。
深く考えさせられる言葉、思わず涙ぐんでしまう場面もあった。
特に、おばあちゃんが良かった。
主人公との出逢いも、別れも。
「かわいい怪物」という呼び名も。

シンプルな表紙もいい。
絵は四色、文字色を含めても六色しか使っていないのに、このインパクトったら。




posted by 日和 at 16:39| Comment(0) | 小説(S) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月11日

運命の旅(Schicksalsreise)

AlfredDoblin_001.jpg
 作:Alfred Doblin(アルフレート・デーブリーン)
 訳:長谷川 純
 装幀:山田 英春
 出版社:河出書房新社







■ 内容説明 ■

孤高の作家によるナチス占領下フランスからの脱出記。
家族との離散、難民収容所、ハリウッドへの亡命……
1933年から48年までの戦火の暮らしを克明に綴った迫真のドキュメント。


■ 感想 ■

正直なところ、私が読みたいと思った内容ではなかった。
宗教的な色合いが濃すぎた。
濃さが増す残り四分の一あたりからは流し読みになった。
しかし、求めるものが違っただけで、とても貴重な本だと思う。

第二次世界大戦前の作者は、それほど熱心な信者ではなかった。
むしろ一般的な日本人−−不幸があれば寺で葬儀は出すけれど仏教徒というほどではなく、クリスマスもハロウィンも楽しむ――に近いように感じられた。
敬虔なカトリック教徒に変わったのは戦争が原因で、そこにいたるまでの思索が丁寧につづられている。

著者はポーランドに生まれたユダヤ人だが、家庭の事情でドイツに移住し、精神科医かつ作家として過ごしていた。
戦争前にフランスに亡命。
役所で働いていたため、戦争が始まってからも一般市民と比べれば優先的に避難できた。
敵国ドイツからの亡命者としてもユダヤ人としても、破格の扱いだろう。
しかし、当時の本人はそこまで考えられない。
自分の身にふりかかった不幸を延々と嘆き、神と対話する。
周囲の避難民も、避難所での食事がまずいと文句をつけ、テラスで優雅にティーを啜ったりする。

ナチスドイツがしたことを知っている現代人からすれば、いらいらするかもしれない。
しかし、何の情報も入らない状況に置かれれば、これが普通ではないか。

知らない町に置き去りにされ、一人ぼっちで途方に暮れる著者は、夕立にあう。
木の下に避難するが、雨は止まない。
雨だれが服を濡らし始め、著者はうろたえる。
アウシュヴィッツにいるユダヤ人からすれば、「だから?」というレベルだろう。
だが、何も判らない状況で、実際に自分がこういう目にあえばどうだろう。
絶望してもおかしくないのではないか。

強制収容所。あれと「比べるなら」、誰が何を言えるだろう。
しかし、比べる必要なんてない。どの声も貴重なのだ。
ユダヤ人を匿った人、売った人、迫害した人、ナチス崇拝者。
台風の目のなかに入り込んだかのように、なんの影響を受けずに日常を送った人。
何を見た? どんな気持ちがした? あとから何を知り、どう思ったのだろう。

電車が来るか来ないかもわからない真っ暗な駅へと、行き場のない著者は一人戻る。
その不安感といったらない。

この本があって良かった。




posted by 日和 at 12:51| Comment(0) | 小説(D) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月10日

二流小説家(The Serialist)

DavidGordon_001.jpg
 作:David Gordon(デイヴィッド・ゴードン)
 訳:青木 千鶴
 装幀:水戸部 功
 出版社:早川書房







■ 内容説明 ■

ハリーは冴えない中年作家。シリーズもののミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末だった。
だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。
かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ。
ベストセラー作家になり周囲を見返すために、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かうのだが……。
ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場!
アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作。


■ 登場人物 ■

ハリー・ブロック … 売れない作家
クレア・ナッシュ … 女子高生。ハリーのビジネスパートナー
ダリアン・クレイ … 連続殺人鬼。死刑囚
ダニエラ・ジャンカルロ … ダリアンに双子の姉を殺されたストリッパー
ジェイン … ハリーの元恋人
ライアン … 作家。ジェインの夫
キャロル・フロスキー … ダリアンの弁護士
テレサ・トリオ … フロスキーの助手
モーリス … ハリーの友人。花屋
T・R・L・パングストローム … SFを書く時のハリーのペンネーム
J・デューク・ジョンソン … ミステリ、サスペンスを書く時のペンネーム
シビリン・ロリンド・ゴールド … ヴァンパイアものを書く時のペンネーム
トム・スタンクス … ポルノ記事を書く時のペンネーム
アバズレ調教師 … ポルノ雑誌「ラウンチー」の相談コーナーでのペンネーム
ジリアン・ジェッソ … ハリーのペンネームのひとつ
モーガン・チェイス … ダリアンのファン。大手融資銀行勤務
マリー・フォンテイン … ダリアンのファン
サンドラ・ドーソン … ダリアンのファン。大学生
タウンズ … ダリアン事件担当のFBI特別捜査官
テレンス・ベイトソン … FBI特別捜査官。タウンズの部下
グレッチェン … ダリアンの里親
ドーラ・ジャンカルロ … ダリアンの被害者。ダニエラの姉
ナンシー・ジャレル、ジャネット・ヒックス、サンディ・トナー … 被害者
ジャレル夫妻 … ナンシーの両親
ヒックス … ジャネットの父
ジョン・トナー … サンディの夫。工場経営者


■ 感想 ■

ジェシー・ケラーマンの「駄作」とこの本とを、よく取り違える。
おそらく、主人公がどちらも作家のせい。

読み終わっての気分は、青春小説を読んだ時に近かった。
殺人犯の口を借りた芸術論が熱いのだ。
とはいえエロあり残虐ありで、青春小説には程遠い。
スーパー女子高生のクレアの存在が緩衝材にはなっているが。

感想は、「魅力的な本。でも、この小細工は好きになれない」。

まずは良いところを並べてみる。

・ハリーの心情が丁寧に書かれている。
・殺人犯の芸術論が興味深い。
・ハリーとクレアのやりとりが楽しくて心温まる。
・モーリスとショー・パブへと繰り出す場面も楽しい。
・出だしも悪くないし、ラストも印象的だった。
・全体的に魅力がある。







※※※ caution! ※※※
以下、ネタバレ含みます。
未読の方はご遠慮下さい。
※※※※※※※※※※※






不満点を挙げてみる。

・ハリーが最初に遭遇した殺人だが、時間が足りな過ぎる。
・展開が簡単に読める。
・展開が読めないところはヒントが読者に提示されておらずアンフェア。
・殺人犯が書いた「すばらしい手紙」が書かれていない(作者の技量不足?)。
・弁護士って簡単になれるの?

しかし、一番不快だったのは「曖昧さ」だ。

最初と最後の章を書いている人物と、ハリーは同一か。
違うとすれば、ハリーも死んだのか。
小説を書いたのは誰か。
猫は何だったのか。

どれが創作でどれが事実か、最後の最後で判らなくなった。
私は「なんとなく謎を残してみました」というのが大嫌いだ。

「小説のなかに一人だけ実名の人物がいて、それが本当の著者」らしいが、それが誰かはどうでもいい。
ただ、この設定が本当なのか、作者のハッタリなのかは知りたい。

登場人物の名前が「ドリアン・グレイの肖像」と一部似ていたり被っていたりするが、なにか関係あるのだろうか。
これも判らない。





posted by 日和 at 23:41| Comment(0) | 小説(G) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする